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犬の運動療法

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膝蓋骨脱臼(パテラ)

犬の膝蓋骨膝蓋骨脱臼とは膝関節のお皿(膝蓋骨)がずれた状態のことで、カラダの内側にずれる内方脱臼が多く見られます。内方脱臼になると前十字靭帯に常時負荷が掛かるため、大きくずれている時は外科手術をすすめられます。

外科手術後の運動療法の目的は、「筋委縮の緩和」「筋量の増大」「関節可動域の拡大」です。

術後の約1か月間は短時間多頻度の「矢状面リーシュ歩行」にとどめます。階段歩行や登坂歩行など膝関節に負担が掛かる運動は避けます。同時に冷温療法や徒手療法も併用しますが、術後は創傷部位の治癒状態や高血圧症など注意が必要なことが多いので、専門獣医と相談しながらすすめていきます。

1ヵ月過ぎたら、運動負荷を増やして行くとともに関節可動域のマルチ化運動を取り入れていきます。

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股関節形成不全 / レッグペルテス

犬の股関節成犬を対象とした股関節の外科手術には、主に「大腿骨頭切除術(FHO)」と「人工関節設置術(THR)」の2種類があり、それぞれにふさわしい術後の運動療法があります。

大腿骨頭切除術(FHO)後の運動療法

手術直後からゆっくりとしたPROM(人の手による屈伸運動)を開始します。翌日には起立運動やバランス運動、低負荷歩行運動を開始します。

個体差はありますが、約2週間ほどして切開創が治癒したら本格的な運動を開始します。運動強度や時間の負荷を少しずつ増やして、1か月後の正常歩行を目指しましょう。

人工関節設置術(THR)後の運動療法

術後2週間程度は、短時間多頻度の「矢状面リーシュ歩行」にとどめます。階段歩行やジャンプは避けます。

切開創が治癒したら運動を開始しますが、FHOと異なり人工関節が入っていますので、その可動方向に注意を払いながら運動させなければなりません。股関節がさほど伸展しない「矢状面リーシュ歩行」や「スイミング」、「水中歩行」を選択し、疾走や急な階段歩行などは避けた方がよいでしょう。

保存療法を選択した場合の運動

股関節形成不全の犬では、外科手術を行わないこと(保存療法)を選択することがあります。日常生活では、股関節に負荷を掛けずに周囲の筋力を強化することで関節炎の発症などを予防します。

特に重要なことは「体重管理」と「運動管理」の2点です。筋量増加は必要ですが、体重が増えすぎないように注意し、股関節に負荷を掛ける跳躍運動や急な階段や坂道の登降坂走行は避けます。

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椎間板ヘルニア / 椎間板嚢腫

椎間板ヘルニアは髄核が変形もしくは脱出して神経を刺激する傷病、椎間板嚢腫は椎間板が腫れる疾患です。症状が「頸部」に現れる場合と「胸腰部」にに現れる場合に分かれ、「頸部」に現れた場合は四肢麻痺になることもあります。

頸部椎間板疾患

犬の頸部椎間板首の神経圧迫は、後肢のみならず前肢にも影響してきます。ヘルニアや嚢腫の場合は、患部以外の椎間板にもリスクを抱えていることも考えられますので、術後のみならず、常に再発防止のために頸部への負荷を掛けない運動を心がけます。

術後、自力での起立が難しい犬は、まず立位保持運動あるいは座位保持運動を行わせ、その後徐々に起立運動やバランス運動に移行します。自分で立てる犬には歩行運動をやらせますが、首に負荷の掛からないハーネスなどを利用します。スイミングが避けた方が無難です。

胸腰部椎間板疾患

犬の胸腰部椎間板胸腰部ヘルニアの患犬中、術前に歩いている犬の95%、深部痛覚のある犬の80%、深部痛覚のない犬でもその喪失から48時間以内に手術を行った場合の50%は回復するというデータがあります。

運動療法としての術後リハビリテーションは、運動の種類は頸部疾患の場合とほぼ変わりませんが、負荷を掛けてはいけない部位が頸部ではなく胸腰部であることに、細心の注意が必要です。

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前十字靭帯損傷

犬の前十字靭帯前十字靭帯を損傷する時、一時的な強い圧力で突然切れてしまうこともありますが、ゆるやかに変性していくケースの方が多いとされています。肥満や運動のしすぎは百害あって一利なしですので、注意しましょう。

また、前述しましたが、膝蓋骨の内方脱臼は前十字靭帯に常時負荷を掛けてしまいますので、内方脱臼と診断された場合は特に注意が必要です。

手術としては、部分断裂の場合の「脛骨高平部水平骨切術」や完全断裂の場合の「再建術」などがありますが、関節内で固定した手術の後は、関節外で固定した手術に比べて、できるだけ強度の高い運動を控えるようにします。

「バランス運動」や「矢状面リーシュ歩行」など関節内靭帯に負荷の掛からない運動から開始し、膝上低水位の「水中歩行」や「カバレッティレール歩行」、「スイミング」など膝関節の屈伸運動が伴う運動に徐々に移行していきます。

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脊髄損傷/脊髄梗塞/脊髄腫瘍

犬の胸腰部椎間板症状や手術方法などはまったく異なりますが、術後のリハビリテーションは「頸部椎間板疾患」の場合とほとんど変わりません。ただし、脊髄腫瘍の場合で保存療法として運動療法を選択した場合は、残念ながら進行に従って強度や回数を減らしていかなければなりません。

J-Workoutのリハビリテーション

人の脊髄損傷者向け歩行リハビリテーション施設として多くの結果を出しているJ-Workout社が提唱する「オリジナル方式”回復の6段階”」の紹介と犬のリハビリテーションへの応用について記述します。以下、J-Workout社のトレーニング法は同社発行のパンフレットから引用しています。

Phase1 Reactivation&Stabilization(再活性化と安定化)

トレーナーがクライアントの補助をしながら、麻痺部分への反復運動を行います。これらは神経組織の再活性化を目的としており、エクササイズの中で最も基礎的で、最も重要なものです。神経回路の再活性化を行うためには、トレーナーが筋収縮を誘発するのと同時にクライアント本人が自分で脚を動かそうと意識して、その命令を脳から脊髄を通して筋肉へ送ろうとすることが大事です。また、荷重をかけることで上半身・下半身の関節の安定性を強化していきます。

【犬のリハビリテーションへの応用】
麻痺した犬の神経を促通させるには、重要なポイントが2点あります。@繰り返し行われる「反復運動」を毎日続けること、A犬に「反復運動」を施されているという意識を持たせることです。また、この段階では抗重力筋の強化ではなく、関節の拘縮を防ぐPROM運動に重点をおきます。適応は水中サイクリング運動や横臥位でのPROM運動などです。

Phase2 Development&Alignment(発達と配列)

Phase1と同様に多くの時間を反復運動や荷重をかける運動に費やします。直立姿勢に近い状態で正しい姿勢を維持する為の筋肉群を強化します。また、関節の安定に伴いより荷重が強く、多数の関節を含む複雑なトレーニングを始めていきます。Phase2は回復の次のステージに進むためにとても重要であり、また一番困難なステージでもあります。

【犬のリハビリテーションへの応用】
神経促通のための反復運動に抗重力筋の強化運動を加えます。また、関節の拘縮を防ぐPROM運動は立位でも行うようにします。適応は、水中サイクリング運動や立位保持運動、PROM運動、バランスボール(ホールディング)などです。

Phase3 Eccentric / Concentric Muscle Contraction(短縮性と伸張性の筋収縮 / 意識的な筋収縮)

Phase2までに増強した筋収縮は、的確な方法で導かなければ、機能的な筋収縮にはなりません。筋収縮のコントロールは歩くために非常に重要な要素となりますので、Phase3ではトレーナーが筋収縮のONとOFFのコントロールに自発性を持たせるよう指導していきます。

【犬のリハビリテーションへの応用】
神経の促通が見られたら、Phase3に進みます。エキセントリックトレーニングとは、筋肉を短縮させながら力を発揮させるトレーニングで、コンセントリックトレーニングは、筋肉を伸張させながら力を発揮させるものです。抗重力筋が強化されてきたら、屈筋伸筋の強化に入ります。また、人が運動させる他動運動(水中サイクリング運動や立位保持運動、PROM運動など)から、犬が自発的に運動をする自動運動(スイミング、シットツースタンドなど)に徐々に移行させます。適応は、スイミング、障害物歩行(カバレッティレールなど)、階段歩行、草むら歩行、バランスボールなどです。

Phase4 Function&Coordination(機能と整合性)

Phase4では各動作の整合性を向上させることが目標です。また、長時間の立位にも慣れていただき、歩行に向けて筋持久力を向上させていきます。そのため、歩行トレーニングや立位でのエクササイズに多くの時間を費やします。エクササイズの内容も更にダイナミックで複雑化・特殊化します。

【犬のリハビリテーションへの応用】
筋力を強化し、日常生活が円滑にできるようにします。適応は、スイミング、日常の散歩(ジグザグ歩行や階段歩行)、バランスボールなどです。

Phase5 Balance&Gait Training(バランスと歩行訓練)

Phase5の目的は機能的な歩行訓練を行い、日常生活において歩行が可能になることです。手と脚を別々に動かす運動やバランスエクササイズ(例えば、自転車をこぎながらボール投げを行うなど)を積極的に取り入れ、ほぼ手放しで歩ける状態に近づけていきます。またどんな路面や天候であっても環境に適応しながら歩行できるようなレベルまでトレーニングしていきます。最終的には、車椅子が必要なくなります。

【犬のリハビリテーションへの応用】
バランス能力の向上を目指します。スイミング時には、自らが行うターンを多用し、関節可動域のマルチ化をはかります。適応は、8の字スイミング、様々な障害歩行、バランスボールなどです。

Phase6 Conplete Walking&Running(完璧な歩行・走行)

Phase6では完璧な歩行、スポーツ、趣味の為に更なる飛躍を目指してトレーニングをします。Phase1-5で獲得した能力を基盤に、走る練習、階段上り下りの練習、自転車に乗る練習など様々なエクササイズを行います。J-Workoutでは「進歩が止まる時は挑戦をやめた時」という考え方のもと、Phase6という段階を新しく設け、クライアントの要望に応えるトレーニングを提供しています。

【犬のリハビリテーションへの応用】
人同様、いろいろな運動を行わせます。

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クレール・コンサルタント