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不動化による廃用症候群

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「不動化による廃用(廃用症候群:disuse syndrome)」とは、加齢や手術などで活動量が減り、カラダの各部位の機能が低下した状態を指します。つまり、カラダを動かさないことで各部位の調子が悪くなり、最悪の場合、動けなくなることを意味しています。

今回は「不動化による廃用(廃用症候群)」について、その原因を各部位ごとにできるだけわかりやすく説明します。

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不動化による骨の廃用

骨の構造と強化

骨の構造骨は骨膜と骨質、骨髄からできています。
骨膜は表面を覆う組織で、神経や血管、リンパ管が走っている部分です。

骨質はコラーゲンの土台にカルシウムやリンなどが付着したもので、皮質骨(緻密質)と海綿骨に分けられます。
皮質骨は骨膜のすぐ内側にあります。骨膜と骨質の間には骨芽細胞があり、骨芽細胞がコラーゲンでできた骨基質を分泌すると、骨膜を持ち上げながら皮質骨が成長していきます。
海綿骨はその内側にある多孔質の組織で、その中心部には骨髄腔があります。皮質骨に比べるともろい性質です。
骨髄腔の中は骨髄で満たされているのですが、骨髄の中にある骨髄細胞は血液を造る働きがあります。

骨は、毎日古い細胞が分解され、新しい細胞が作られます。これは「骨新生」または「骨代謝」と呼ばれています。「破骨細胞」が骨を分解し、「骨芽細胞」が骨を造るのですが、骨芽細胞が造るのはコラーゲンで、それにリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)などが付着することで、骨ができあがります。

物理的負荷の強い運動によって骨に圧電効果(力学的負荷によるひずみ)が生じると、骨にマイナスの電位が発生します。マイナスの電位が発生した部分は骨を造る骨芽細胞が活性化、コラーゲンでできた土台が盛んに造られることになり、同時にプラス電荷のカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどが盛んに付着します。こうして頑丈な骨が出来上がります。

骨を壊す破骨細胞は電位に関係なく働きますので、骨芽細胞の活動性が低下すると、骨からカルシウムなどが失われていき(脱灰)、骨がもろくなります。つまり、骨は、損傷に至らないほどのひずみを与え続けられることで強度を維持・強化できるものであり、ひずみを与えられる機会が少ないともろくなってしまうわけです。もろくなった状態を不動化による骨の廃用といいます。

骨密度を高めるためには、運動以外に栄養にも注意しなければなりません。コラーゲンの材料となるアミノ酸や強度を高くするカルシウム、リン、マグネシウムなどはもとより、合成の触媒となるビタミンD、C、Kや鉄なども適正に摂取させることが重要です。

骨の強化にはジャンプなど一定の負重あるいは衝撃を与えることが大切であり(この仕組をウォルフの法則と言います)、術後の固定中の犬でも、動かせる部位については、PROMやマッサージなどで骨の形成を促す必要があります。

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不動化による筋肉の廃用

筋肉の構造と強化

筋肉の構造筋肉は、主にアクチンとミオシンというタンパク質でできた筋線維と、コラーゲンというタンパク質でできた筋膜でできていて、伸びたり縮んだりするのは筋線維、それを支えているのが筋膜です。

筋線維には、血中のヘモグロビンから酸素を受け取り、貯蔵することができるミオグロビンというタンパク質が含まれていて、その含有量によって速筋線維と遅筋線維及びその中間筋線維に分かれます。
無酸素運動で強い負荷を与えると速筋繊維は太くなります。これを「筋肥大」といい、この過程でアクチンとミオシンが増えて、筋パワーが増大します。
一方、有酸素運動で筋肉に弱めの負荷を長時間与えると遅筋線維の数が増えてきます。遅筋繊維は、太さが変わるのではなく数が増減するもので、ミオグロビンを多く含んでいますので、有酸素運動の主な目的は、筋パワー向上ではなく、酸素維持能力の向上ということになります。

運動の種類で筋肉の性格が変わるというわけです。

コラーゲンでできた筋膜は筋肉や内臓など全身に分布し、全身の形と姿勢を保っています。筋膜以外の組織を全て溶かしてもカラダの形が保たれると言われるほどで、第二の骨格とも呼ばれています。
コラーゲンは、細胞などをくっつける、いわば「糊」ですので、筋肉を動かさないと細胞外基質(マトリックス)の中の保水成分などが減ってしまい、残ったコラーゲン線維が近接して癒着してしまいます。コラーゲン線維が癒着することで筋線維は収縮不能となり、筋肉の運動性が低下し、さらに癒着が進むという結果に陥るのです。これが不動化による筋肉の廃用です。同じ姿勢での長時間作業などにより癒着しやすく、時にコリや痛みを招き、筋肉の柔軟性を損なわせる原因になります。昨今よく耳にする「筋膜リリース」とはその癒着をはがす運動のことを言います。

日頃から運動を習慣づけることが大切ですが、術後の固定中の犬でも、動かせる部位については、マッサージで癒着をほぐし(筋膜リリース)、血流を増加させる必要があります。

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不動化による関節の廃用

軟骨の構造軟骨は、U型コラーゲンやプロテオグリカンといった細胞外基質と軟骨細胞でできています。

U型コラーゲンは軟骨内の骨格のようなもので、様々な構造物を支える働きを持っています。
プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸というグリコサミノグリカンとコアタンパク質が結合したものです。ヒアルロン酸もグリコサミノグリカンの一つですが、プロテオグリカンを付着させる土台となります。コンドロイチン硫酸は大量のマイナス電荷を持っており、プラス電荷のナトリウムイオンを引きつけます。この時、ナトリウムの水和水が一緒に寄ってきますので、軟骨は豊富な水分を保つことができるわけです。
軟骨細胞は、軟骨芽細胞を含み、U型コラーゲンやプロテオグリカンなどを造る働きをしています。

軟骨には血管がなく、組織液を介した拡散によって酸素や養分を受け取り、老廃物を排出することになります。組織液の移動は軟骨の伸縮(スポンジのように縮めたり広げたりすること)で行われるため、普段の運動が欠かせません。

関節内軟骨のコラーゲン線維や軟骨基質(プロテオグリカンやヒアルロン酸)は圧電効果や負重により産生されます。また、軟骨内の栄養や水分も運動によって新陳代謝が行われますので、動かさないと保水機能が低下し、軟骨の弾力性が失われてしまいます。これが不動化による関節の廃用です。

関節の健康維持のためには、激しい屈伸運動は逆効果になりますので、緩やかな屈伸運動を与えることが大切です。ただ、弾力性を維持することはできても、積極的に強化する運動については今だ確立されていません。

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不動化による腱・靭帯の廃用

頸部の項靭帯・椎骨内の黄色靭帯はエラスチン80%ですが、その他の腱や靭帯は95%コラーゲンでできています。腱や靭帯に運動を与えないと、コラーゲン線維の癒着が起こり、負荷に対する抵抗力が減衰、つまり弾力性を失うことになります。これが不動化による腱・靭帯の廃用です。

癒着をほぐして血流を増やすマッサージ、PROM、AROM(ウォーターセラピーなど自発的な伸張による部分的な荷重)や運動をやらせることが大切になります。ただ、軟骨同様、積極的に強化する運動については今だ確立されていません。

腱はゴルジ腱器官(腱紡錘)というセンサーで筋肉の収縮/腱の伸張を感知し、中枢神経に情報を伝達、筋や靭帯に指令を送らせて、それらの損傷を防ぐ働き(Tb抑制:イチビー)を持っています。その張力感知のためには弾力性を維持することが必要なのです。

ちなみに、弾力性は温度にも影響されますので、運動前にはウォーミングアップ(動的ストレッチング)を欠かさないようにしましょう。

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クレール・コンサルタント